悠久幻夢嵐(1)-雷の章-a rainy insilence



「よしっ、お前ら無事に今日を迎えたな」


嵩継さんが、勇と千尋君を弄るように言葉を掛けていく。



和やかな雰囲気が、ドアが開いた途端に一転して張りつめる空気。


姿を見せたのは、鷹宮院長と、水谷総師長。
そして……もう一人。



「今日から君たち研修医は、この病院で医者としての第一歩を踏み出すことになる。
 此処に居る私をはじめ、成元【なりもと】・城山・安田をはじめ、
 当院に居るスタッフが君たち研修医の指導者となる。

 今日から二年間、しっかりと研修を行って、
 叶うならば研修後も当院で働いてくれることを強く望んでいる。

 知っていると思うが、昨日、胃潰瘍で早城君のお母さんが入院された。
 今日、嵩継と城山先生とのオペが予定されている。

 早城、気になる時は声をかけて様子を見にいっていいぞ」


そう言って、勇の養父は言葉を続けた。
そんな院長の言葉に、飛翔は無言で丁寧にお辞儀をした。




そうやって始まった研修医としてのスタート。




毎日が勉強の日々が再び続く中、
飛翔は今も研修の合間に、神威君を探しに出掛けている。



昼間の研修、夜には神威君の捜索に出掛けて、明け方、病室に帰宅して
簡易ベッドで仮眠をとる生活を続ける飛翔。




少しずつ私や時雨を頼ってくれていた、
刺々しさが薄らいだ、最近の飛翔とは違って
この頃の飛翔は、出逢ったばかりの頃を匂わせた。




飛翔……今も貴方は、
あの頃と何も変わっていない……。



独りで大きな何かを全部抱え込んで、
飲み込まれないように必死にもがき続けている。



そんな風に映る、親友の姿を見届けながら
私は、自分の中で静かに誓う。





時雨にしても、飛翔にしても……
今の私出来ることは、ただ運命を必死に対峙し続ける彼らの傍に
居続けることだけ。



だからこそ……そんな二人が、手を差し伸べた時、
私がそのサインを絶対に逃すことのないようにしたい。

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