悠久幻夢嵐(1)-雷の章-a rainy insilence


「はい。
 政成先生は、徳力のホームドクターをお願いしています」

「そうだな。
 その政成先生は、私の妹、恋華【このは】の夫にあたる。

 徳力の柵については、神威君を当院に転院させる際に
 いろいろと聞かせて貰った。

 ほんのさわり程度だが、早城君の生い立ちのようなものも
 勇人から聞かされている。


 どうだろう。
 今の状況では、集中して研修を続けることも出来ないだろう。

 
 君が優先すべきことは、今は研修を中断してでも
 自分自身のことを片付けることではないだろうか」





病院長は、優しい口調ながらも
決定事項のように、研修の一時中断を告げる。




「早城くん、お母さまが入院されてから
 ゆっくりと眠ってないでしょう。

 昼間は研修して、研修が終わって神威君を探しにいって
 明け方に病室に顔を出して、そのまま簡易ベッドで仮眠とって。

 そんな生活をしていることを知りながら、
 見て見ぬふりは出来ないわよ。

 治療者を目指すものが、自分自身の状態も管理できないのは
 問題だもの。


 だからこそ、長期戦にならないように
 少しでも早く、研修に集中出来る環境を作れるようにと
 雄矢先生は休暇を提案されているの。


 昔、嵩継君にも研修医の頃、今日みたいな措置をとった時があるわ。
 だから早城君だけが、特別ではないのよ」



院長の言葉の後、補足するように水谷さんが言葉を続ける。




差し出されたお茶を飲み干すと、
「お言葉に甘えて、研修の中断と休暇を頂きます」と告げて
ソファーから立ち上がると、深々とお辞儀をする。




「早城、全てを片付けて早く帰って来い。
 
 今日は勇人と嵩継が裏に居るはずだ。
 出掛ける前に、裏で少し休んで行け」



病院長に告げられるままに、一礼して
俺は水谷さんの部屋を後にして医局に戻る。


その場所で、成元御大と城山先生に家の用事で
研修を中断して、休暇を貰うことになったことを告げると
荷物をまとめて勇の生活している、裏と呼ばれる、院長の自宅へと向かう。



チャイムを鳴らすと、院長夫人と勇が姿を見せて
テーブルには院長夫人の手料理が並ぶ。


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