悠久幻夢嵐(1)-雷の章-a rainy insilence


プシュ。




部屋の向こうからプルタブを引っ張る音が聞こえて、
ノックをせずにその部屋の扉を開いた。




灯りのない部屋。



ドア付近にあるだろうスイッチを手探りでつけると、
そのまま寝室のベッドに座って、
缶ビールに口をつけた飛翔の姿を捉えた。



慌てて、飛翔の傍まで近寄ると、
彼の手からビールを奪いとる。



「由貴っ!!」



座ったまま視線を向けて睨む飛翔の目は
何故かとても寂しそうで。




「返しませんよ。
 もう十分でしょう」




缶ビールを奪ったまま告げると、
邪魔くさそうにベットから立ち上がって寝室を出ていく。



リビングに辿りついた飛翔はブランデーを
グラスに注ぎこむと今度は、ロックで一気に飲み干した。 


何も言わず、もう一度注ぎ込んで、
一気に飲もうとした飛翔の頬を私は気が付いた時には
思いっきり掌で打ち付けていた。




反動で飛翔の手から離れたグラスが床に転がり砕け、
ブランデーが足元ではねる。


掌に残る痛みの感触。




……飛翔……。




このままじゃいけない。




飛翔の足音が遠のいていく。



慌てて、その後を追いかけて
玄関のドアの前で飛翔を塞ぐ。






「何してるんです。
 飛翔。

 連絡がないと思って来てみれば、
 まともに生活すらしてない。

 何もないなら、おばさんのお見舞いに
 顔くらい出したらいいでしょ」



精一杯の睨みで目を逸らさないように
飛翔を見つめる。


飛翔は相変わらず何も話さない。


「私を睨んでも今日は無駄ですよ。
 私も貴方に言いたいことがいっぱいあるんです」




そうです。
水臭いんですよ。



何も話してくれないなんて。



「飛翔……私では頼りないですか?」




気が付くと……ボロリと小さく呟いた本音。




もう10年近くの付き合いになると言うのに、
貴方は……いつも優しくて、私を助けてくれるのに
貴方の心を見せてはくれない。





「……由貴……悪かった」




飛翔は呟くように告げると、
黙って部屋の中へと戻っていった。


リビングに入ると引き出しの中から
手にしてきた小さなアルバム。



飛翔はゆっくりとガラステーブルの上に置いた。

促されるままにソファーに向かい合わせに座り込む。

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