悠久幻夢嵐(1)-雷の章-a rainy insilence


部外者なら部外者らしく、
何も知らずに大人しくしていればいい。



大人しくしていれば……平穏に暮らせるだろう。






そんなことを考えながら、
ただ無限ループのように思い返すアイツのことを思っていた。




殆ど眠れぬままに朝を迎えたボクは、
明け方、届けられたお神酒を口にしてずっと閉じ込められていた部屋を後にした。



もうこの部屋に戻ることはない。




*

桜瑛……今度こそサヨナラだ。

*


心の中で唱えて八重村たちの後に続いた。




「ご当主、儀式の前の禊のお時間です」



膝まづいて敬意を称する日暮の言葉に、
総本家の邸の中の最奥と言われる神域の洞窟の方へと歩んでいく。



洞窟の中、湧き出る出水の中に
身に着けている洋服を取り除いて、
ゆっくりと体を委ねるように入っていく。




冷たい水が俗世の感情を洗い流すように、
神経まで凍り付かせていく。


カチカチと歯を鳴らしながら、
古から伝わり続ける禊の肯定を一つずつ確実にこなしていく。


全ての禊の行程が終わって、
出水を後にすると、すでに白装束に正装した元井と日暮が
頭を下げたまま、真っ白な晒を体に巻き付ける。


用意された晒に、水分を吸着させた後
その場で儀式用の白装束を一つずつ身に着けていく。



衣装が身に着け終わったら、
ボクのこの命も残り僅かだろう。




そう思いながら、遠い昔へと想いを馳せる。


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