悠久幻夢嵐(1)-雷の章-a rainy insilence



「闇寿さま、あの方は」

「生駒家の本巫女。
 蒼龍と契約せしもの」




生駒と言えば……、
風舞【かざまい】の一族。



「と言うことは、この屋敷は目に見えぬものに
 何かを細工されているということですか?

 俺も邸に足を踏み入れた途端に、
 圧迫を受けて意識を失いました」

「この奥に華月は居る。
 万葉からの情報だ。

 今日、当主の儀式が行われる。
 何としてでも阻止したい。

 その為に、私が柊佳殿を探し出して此処に来て頂いた」



そう告げた闇寿さまと一緒に、
目の前での不可思議な時間を見届ける。



まるで何かの夢を見ているように、
風が巫女を宙へと浮かしていく。

浮遊する巫女は、そのまま指先で何かを描き出す。




次の瞬間、暴風雨のように風が暴れ出して、
龍神のシルエットが総本家の頭上に現れた。


豪雨のような雨が降り注いで、
ピタリと止んだ瞬間、宙を浮遊していた巫女が突然落下してくる。


落下した巫女を慌てて抱きかかえる闇寿さま。



「もう大丈夫ですわ。

 雷龍の力が解放されるまでは、何時同じ状態になりうるかはわかりませんが
 今暫くは持つでしょう。

 闇寿殿、早く華月殿の元へ」



巫女はそう告げると、闇寿さまは視線を俺に向ける。



「由貴、彼女を頼んでいいか。
 俺は中に入る」


彼女のことを由貴に託すと、
そのままこの間は踏み入れた途端に、圧迫感が激しくて動けなくなった
その空間へと足を踏み入れた。


前回の出来事が嘘のように、
何の抵抗もなく侵入することが出来る。


闇寿さまについて、総本家の奥座敷の方まで踏み入れると
その中の一番奥の座敷牢で、縄に縛られたまま壁際に繋がれている華月の姿を見つける。


すでにその体に力はなく、
繋がれた鎖だけが、辛うじて彼女を支えているような現状だった。



ずっと手にしていた刀の鞘を取り払って、
座敷牢の鍵を隠すと、そのまま彼女結ぶ縄を切って鎖を叩き落とす。



「飛翔、手を貸せ」


闇寿さまに求められるままに、
華月を救出する。


闇寿さまの体に倒れ込むように崩れ落ちた体を、
その場で横にさせて、確認していくのはバイタルの状態。



「外に運び出そう。
 勇が神前とコンタクトをとってくれる手はずになっている。
 すぐにドクターヘリが飛んでくる」


そう告げると、華月を抱きかかえようとする手を闇寿さまが制して
自ら抱きかかえると、座敷牢の外へと向かっていく。


「飛翔……」


生駒の巫女を解放していた由貴が、
次に運び出された華月の状態を見て絶句する。

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