悠久幻夢嵐(1)-雷の章-a rainy insilence

「飛翔と同じように彼女も閉じ込められてたの?」

「あぁ。
 これで後は、神威だけだ。

 由貴、勇には連絡したか?」

「えぇ。勇はすぐに神前からドクターヘリを向かわせてくれる。
 そのヘリで一緒に乗り込んでくるみたいですが……。

 後、時雨ももう近くまで来てるみたいです。
 皆、飛翔のことが心配なんですよ。

 私だけじゃなくて」




そう言った由貴の言葉に、
心が少しあたたかくなるのを感じた。





そんな温もりを、アイツは……
神威は知っているのだろうか。




まだ早い……。
アイツを死なせるには。




「由貴、ヘリが来るまで頼んだ。
 闇寿さま、神威の方へと俺は行きます」


行先だけ告げて、そのまま総本家の敷地を飛び出して
山道を抜けて、儀式の行われてきた砂浜を目指す。




兄貴と何度か出向いた、
母さんと父さんが最後を迎えた場所。



そして兄貴が最後を迎えたその場所で、
今日、短すぎる終焉を迎えようとしている神威。



どれだけ憎まれても、
それだけは阻止したくて。





痛みだす脇腹を抑えながら必死に走り続けた先、
真っ白い装束の行列が掛け声と共に輿を運んでいく。




先頭から数名は手にそれぞれ榊や竹飾り、
お供えものを手にして歩いている。


その後ろには豪華な輿が
何人もの人に担がれて後に続いている。




「神威っ。
 俺だ、飛翔だ」





柄にもなく叫びながら行列の方へと走っていくと、
輿を停めて、綺麗に整列していた白装束の奴らが
俺の方へと一斉に向かってくる。


そんな白装束の村人たちの攻撃を慣れない砂に
足を取られながらかわしたり、
投げ飛ばしつつゆっくりと輿へと近づいていく。




「神威っ!!」



神威の輿まで一気に駆け寄ると、
その輿の扉を蹴破る。




「……飛翔……」





驚いたような顔をしたアイツに手を伸ばして、
輿の中から引きづりだすと、
神威を守りながら、襲い掛かる奴らと殴り合う。



だけど僅かな隙で、村人たちは神威を奪い取り、
輿から下ろしたまま、アイツを縄で縛りあげて
引きづるように海の方へと連れて行く。
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