捨て猫にパン
「明日、休みだったよね?」


「ハイ。明日と明後日はお休みいただいてます」


「土曜日って、何か予定ある?」


「いえ、特にないですけど?」


「オレも土曜は休みなんだ。一緒にどうかな?」


「…へ?」


一緒、って。


どういう意味かわからず、まじまじと倉持さんの顔を見つめてしまう。


茶色いパーマのかかった髪が車の中の風に少し揺れると、倉持さんはフッとやわらかに微笑んだ。


その笑みにあたしは目を反らせなくて。


その切れ長の瞳に。


左目下の小さなホクロに。


まばたきと一緒に心の中でシャッターをきる。


涼しいはずの車内なのに暑くて。


胸の中が熱くて。


体中を打つ脈がジンジンして止まらない。


赤信号でブレーキをかけた倉持さんが少しあたしを引き寄せて、右耳に唇が触れるほど近づいて。


「デート。ヤ?」


「───!!」


唐突なその言葉に、急に体が固まる。


NoなのかYesなのか、その返事すら自分でわからない。


「真琴ちゃん?」


「………っ!」


「ヤ?」


吸い込まれてしまいそうなその瞳に言葉は出てくれなくって、ただ首を振った。


「OKの返事ってことでもらっとく。土曜10:00、迎えに行くから」


───コクン


ただ頷くだけで、それきり会社に着くまで倉持さんとの会話はなかった。
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