マーメイドの恋[完結]
やはり夏子は、ハッキリとしたことが言えない性格なのだ。
ここで倉沢に迷惑だ、話しかけないでほしい、友達になるのも嫌だなどと言った方が、倉沢のためにもいいのかもしれない。
これもいつものパターンで、倉沢という人物も、そんなことを言えない魅力のある男性なのだ。
夏子の中の何かが、倉沢を欲している。
好きなのは伊原のはずなのに、倉沢が夏子から完全に離れていってしまうことを、恐れている自分もいる。
これでは伊原のことを責められないのではないか。
しかし、倉沢といると心が癒された。
優しくされることに、甘えていたいと思ってしまうのだ。
年下なのに包容力がある。
あの日、夏子が海の中へと入っていこうとした時に、倉沢に抱きついて泣いてしまった時、とても気持ちが安らいだ。
好きな人に抱きしめられるのとは、また違う心地良さがあった。