先生がくれた「明日」
帰り道、私は悶々としていた。

一体、これからどうなるんだろう。

スパイ、といってもどうしたらいいんだろう。

どうしたら、秘密のはずのレシピを教えてもらえるんだろう。

不安が、心の中でどんどん膨れ上がっていく。



「新庄!」



下を向いて歩いていたら、家の近くでいきなり後ろから呼ばれて驚く。



「あ、跡部先生。」



先生は、小走りで私に追いついてきた。



「新庄、その後はどうだ。」


「どうだって、何が?」


「バイトしてないかって言ってるんだ!」


「そんなこと、先生に言うわけないじゃん。」



笑う私を、先生は肘で小突く。

ふと見ると、先生も少し笑っていた。


――意外。


生徒指導の鬼教師、っていうイメージだったのに。

こんなお茶目な一面もあるんだ。



「お前、あんまり寝てないだろ。」


「え?」



突然の質問に驚く。

まあ、そうかもしれない。

帰って、家事をしたりしていると気付けば10時半くらいになっていて。

そこから勉強していると、眠るのは深夜になる。

そして、朝は歩の分もお弁当を作るから、5時には起きないとならない。


だけど、どうしてそれを先生が知ってるんだろう。



「毎日、窓が明るい。深夜まで。」


「やだ、先生。そんなことチェックしないでよ!」



くくく、と笑いだすと止まらない。

先生、まるでお父さんみたい。



「歩、っていう弟がいるの。」


「へえ、知らなかった。」


「まだ小学生なんだけど、この間先生の話したら、遊んでくれるかなー、とか言い出して。」


「は?俺がお前の弟と?」



跡部先生は、怪訝な顔をして私を見つめる。



「うん。だから、今度誘ってみるねって弟に言っちゃったんだけど。」


「それで、俺にどうしろと?」


「うちに来ないかなーって。」



先生は、しばらく悩むような顔をしていた。



「でも、家庭訪問でもないのに、女子生徒の家に教師が出入りするのはちょっとな。」


「でも、教師と生徒の前に、私たちご近所さんじゃないですか。それっておかしい?」


「うーん。」



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