先生がくれた「明日」
その日の放課後。



「失礼します。」



二人で声をそろえて、進路指導室に入る。



「おう、佐倉。……新庄?」



先生が、不思議そうに私たちを交互に見る。



「何だ、お前たち友達だったのか?」


「さっき、友達になったの。」



ちょっと笑って言うと、先生も笑顔になった。



「そうか。それはいい。」



先生の声が、とても嬉しそうだ。



「跡部先生……。」



隣で、痛切な表情で瑞紀が口を開いた。



「ごめんなさい!」


「おい、どうした?」



勢いよく頭を下げた彼女に、先生は驚いている。



「私、ずっと先生に嘘ついてました。私、……お父さんがいないなんて、嘘です。いるんです。……ほんとのお父さんじゃないですけど。」



それを聞いた先生が、何て答えるのか不安だった。

先生が口を開くまでの時間が、とても長く感じた。


すると、先生はふっと微笑んだ。

彼女を安心させるように、優しく。



「知ってる。」


「え?」


「俺、一応先生だから。書類の上のことは分かる。お前の嘘、最初からバレバレだ。」



言葉の割に、笑っている先生。

そんな先生に、瑞紀もやっと、固い表情を崩した。


さすがだよ、先生。

すべてを知ったうえで、わざと騙されていたなんて。



「寂しかったんだろう?佐倉。」



こく、と頷く彼女の目から、涙が溢れる。

とてもとても、綺麗な涙だった。



「だけど、居酒屋はやめなさい。未成年なんだから、捕まったら厄介だぞ。」


「はい。」


「次のバイト先が決まったら、俺に報告すること。……また、行くから。」



その言葉に、彼女は嬉しそうに頷いた。

よかった、と心から思う。


先生は、太陽みたいだ。

人の心を、いつでも暖かく照らす太陽―――



「失礼しました!」



二人で声を合わせて、教室を出る。



「おい、新庄!補習を忘れたのか?」


「待って先生!荷物、教室に置きっぱなしなの!」


「早く取ってこい!」



そんなやりとりを横で見ていて、瑞紀は笑う。

もう、寂しそうな笑顔ではなかった。
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