あなたのキス・・・全部好きだった
その日もランチをして

この前のメールの話も、もちろんチラつかせながら

カラオケしながらとおるくんは妙にベタベタしてきた。

「ここで?」

「いや、違う・・・。」って空気に包まれたまま、時間は過ぎていた。

今日はこのまま、そういう場所へ行くのかしら・・・そんな期待もあったけど、

なぜか、私たちは

いつものように私の最寄駅まで

歩いていた。

でも、今日は違う。

彼の手は妙に熱くって

正直、その緊張が伝わってくるような・・・

とおるくんも手頃な場所を探しながら歩いているのを

私は感じていた。

お互い場所さえ見つかれば今にでもしてしまいそうなそんな高まり。

「もうすぐ駅、着いちゃうよ。」

焦れったかった私は

そっと、とおるくんの手をとって

雑居ビルの非常階段に誘い込んだ。

「ここで?」

「うん。大丈夫だよ。」

「ともみちゃん・・・」

とおるくんはやっぱりこういうことしたかったんだね。

ぎゅっと私を抱きしめ

目を見つめてくる。

そっと瞳を閉じると

とおるくんの鼻息がだんだん近づいてきて

私たちは唇を合わせた。

次の瞬間、私は確かにその異変に感じたの。

「え?震えてるの・・・?」

彼の唇はビクビクと震えていた。

「ごめん・・・。こういうの初めてで・・・」とおるくんはちょっと自信なさげに切り出した。

「そうだったんだ・・・」私はこんな雑居ビルに強引に誘い込んでしまった自分が恥ずかしい。

「でも・・・大丈夫だよ。とおるくん。もっとしていいよ。」

私は今度は自分から唇を合わせた。

小刻みに震えていた唇は

だんだんそれも止まり

今度は熱い

男らしい・・・キス。

とおるくんのファーストキスを私は

そうやって受け止めていた。

まだうまくできなくって

歯もあたってしまう。

それが可愛くって好き

私は日に日に

彼のキスに夢中になっていった。

「キスだけでいいの・・・?」

「ううん・・・」

とおるくんは時々とうやって私を試す。

1ヵ月も経つと

とおるくんのキスはみるみるうちに上手くなった。

「キスだけでも、いいよ。」こんな甘いキスなら毎日したいわ。



でも

そんな甘いキスがお預けになっちゃうなんて

私は悲しくって

気が狂いそう~

それはある日のこと

突然入った連絡だった。

「しばらく逢えないなんてヤダよ。」

私はバイトもドタキャンしてしまった。

私は、とおるくんのいる病室に向かっている。

とおるくん・・・

待っててね・・・

慣れない電車に揺られて

とおるくんの住む街へ・・・。

そこで見たとおるくんに最初は絶句しちゃったな、私。



< 3 / 7 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop