過ちの契る向こうに咲く花は
「無理にこじつけようとしなくていいです」
「こじつけじゃないと思うけどなー。なに、野崎は伊堂寺さんきらいなわけ」
 どうしてそういう話になるんだろう。疑問を持ちつつも「きらいではないですが」と答える。すると水原さんには苦笑いを浮かべられてしまった。
「きらいではないけど、好きにもなれないって感じか」
 好きにもなれない。それはどうなんだろう。そもそもその好きが恋愛対象なら、今までそう見ていなかったからなんとも言えないし、そうではないのなら別にそういうわけでもない。きっと、婚約者云々のことさえなければ、仕事上は何事もなくできたのではなかろうか。

 恋愛対象。そう自分で考えて、はがゆさが生まれる。
 私なんかが名乗り出ていいものじゃないだろう。
「野崎、今私なんか不釣り合いだって思っただろ」
「え、いきなりなんですか」
「だってそんな顔してる」
 そんなに私はわかりやすいのだろうか。思わず自分の顔をぺたぺたと触ってしまう。
「それってさ、惚れた奴に失礼だから」
 不意に立ち上がって水原さんが私の額を小突いた。
「俺の嫁さんもそうだったから言うけどさ。それって相手の好み否定してるからな」
「水原さん、何気に自慢してますね」
「バレンタインは、忙しかったさ」
 そう言って水原さんは「そろそろ戻るかー」と会議室のドアへと向かう。結局、出張の打ち合わせなんてなんにもしていない。

 だけどすこし、話ができたことを良かったと思う。
 自分の浅はかさも知った。この時間のおかげで鳴海さんとの会話で多少揺らいだ気持ちもなんとか落ちついた。
 水原さんにはほんとういつも助けられてるなあと思いつつ立ち上がる。
 何も解決はしていないけれど。

 ふと、窓ガラスに映った自分の顔を見る。
「下手にプライドがあるから否定する」
「自分を否定し続ける」
「相手の好みを否定する」
 全部、私に向けられたことばだ。なんだか、否定ばっかり、すべてマイナスに思える。

 ため息ひとつ。向こう側の私が問う。
 肯定するのも悪くないんじゃない。
 ここまで重ねられると、そう思えてくるから不思議だ。

 だけど、それも悪くないのかな、となんとなく思い、眼鏡を外してみた。
 こんなに周りから背中を押されて、それでもいじいじしてるのは、若干かっこわるい。
 
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