遅咲きプリンセス。
 
私は、課長に壁際まで追い詰められ、顔の横に両手を付かれ、まさに“壁ドン”の状況に、思いっきり視線を明後日の方向に泳がせ、ひとまず課長の気が収まるのを待った。

けれど。


「昨日の菅野とのあれはなんだ。それに、さっき縫繊工場から電話があったんだが、今度は倒産したって言うじゃないか。信頼して仕事を頼んでいればこれだ。なんだ!? うちの会社の試作依頼だけでは儲からないというのかっ!!」

「いえ、課長、このご時世ですから……」

「それにしても菅野め。ムカつくな」


ひょえぇぇぇ……っ!!

と。

かえって課長の怒りに火をつける結果になってしまったらしく、課長が本当に怒っているのはどっちなんですか!? 的な、しっちゃかめっちゃかなことになってしまった。


さっきまで私は知らなかったのだけれど、電話を受けた課長に「ちょっと」と手招きで会議室に呼ばれ、行ってみたらこれだったのだ。

それに加えて、先ほど、菅野君は一足先に「お疲れー」と帰っていってしまったので、以前、地方の関連会社に飛ばされた藤原さんから助けてもらったときのようには……いかない。

課長の気を、うまく縫繊工場の倒産へ向けられたら、あるいは、この危機から脱出できる可能性もあるとは思うけれど、私にできるか。
 
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