きみは金色

2人絡まったまま、世界が反転する。


体の側面と背中に、ひんやりとしたタイルが触れて。



「あ…うわ!?ごめ…っ、頭打った!?」



あわてて、腕の中にいる市ノ瀬に声をかけた。



「ごめ…」
「飯田くん」



とても近い距離。


市ノ瀬はおれの名前を呼んで、瞳をゆるめて、言ったんだ。



「…ゲタバコの天井、ちゃんと見るの。わたし、はじめてだ」



顔を赤くして、はにかむ市ノ瀬。



「………っ、」



はじめて。


はじめて、おれも知った。


いとしい、って感情は、涙腺につながってんだってこと。


じわぁ、て目ん玉、あったかくなってさ。


悲しいとか切ないとか、そんなんとはまた別の、やさしい感情が染み込んでくんの。なんか、わかった。



…わかったんだ。いろいろ。


ちょっとずつでいいんだ。



市ノ瀬とおれの、ペースでいいんだ。


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