ライギョ
結局、俺はその夜は実家に行かずその店から比較的近いビジネスホテルに泊まった。


カードキーを部屋に入って直ぐの差込口に突っ込むと部屋に明かりが点く。


2つあるベッドの片方に少し大きめの鞄をドカッと投げ、俺はもう一つのベッドにゴロンと転がった。


予約なしだった事もあり、たまたま空いている部屋がツインルームだった。


シングルユース料金になるとは言え、やはり2名分の部屋を1人で使う訳だから割高にはなる。


「はぁ……」


つい、溜息が漏れた。


ーーーー遠くに行ってしまう気がするの


小夜子の言葉を頭の中で繰り返す。


あの後、小夜子はこうも言った。


「山中くんは安田くんがあんな事になったのは自分のせいだと思っている。ずっと責任を感じてて。」


ふと、俺が転校する時に山中が言った言葉を思い出した。


ーーー俺といるとロクなことがない


きっと山中は自分が安田を誘わなければこんな事にならなかった、自分がライギョを釣りに行こうなんて言わなければ安田があんな目に合うことは無かった。そう思っているんだと思う。



「最近山中くんといてて思うの。山中くんは自分の気持ちを殺して安田くんとして生きていこうとしてるんじゃないかなって。」


「それって?」


「最初はそんなに気になれへんかってんけど、彼の側にいる内に段々とちょっとした違和感を感じ始めたと言うか………好みが急にガラっと変わってん山中くん。」


「好みねぇ。うーん、でもそういう事ってあるよ。誰でもさ。」


「確かにそうなんやけど……一度そういう風に思い出したら色んな事が気になりだして……彼を見てると安田くんならどうするかとか、こういう時、安田くんならどの選択をするかとか………一々そうやって考えてから行動に移してるように思うの。」


「そんな事までするかな?」


「私も実際のところよくわからへん。」


「考え過ぎかもよ。」


「うん、そうやね。そうかもしれへん。ただ………」


急に小夜子が顔を俯かせ言葉を詰まらせる。


「どうした?」


「ただね、私と付き合ったのも安田くんとしての判断なのかなって………」






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