ライギョ
残された俺らは一時期、時の人となった。


テレビ局もいっぱい来てたし、学校内はもちろん、街歩いても後ろ指指されることがあった。


それでも日が経つに連れ、また新たな事件が世間で起こるに連れ少しずつ、堀に落ちた子供が行方不明になったままと言う話は消えていった。


学校内でも誰も安田の話はせんようになった。


だからと言って俺らの記憶からあの日の出来事が消えるわけでもなく


あの夜の事は今も鮮明に刻みこまれてる。


勉強とかで覚えた事はすぐ忘れるくせに、あの日の事は俺の脳の中でミミズが這ってる様な感じがしていた。
 

物凄く、気持ち悪い感覚やった。


俺は段々と自分の存在自体が居心地悪くなってた。


それは俺だけやなかった。


これまでクラスでもムードメーカーやった山中はすっかり人が変わってほとぼりが少し冷めてからも誰とも喋らんくなった。


一人でぽつんといる事が多かった。
 

そんな山中に今までみたいに気安く声を掛けるやつもおらんかった。


何とも近寄りがたい雰囲気が出ていたからや。
 

いつもどこか遠い所を見ているような…山中を見ているとそんな気がした。


あの時、一緒に居てた竹脇もあの日以来、学校を休みがちやった。


先生らに言わせると不登校らしい。


みんなで励ましのメッセージを書いて竹脇くんに渡しましょう、って担任が言うてたけど俺は、それは何か違うんちゃうかなって思ってた。


励ましなんて竹脇は要らんのんちゃうかって。


けれどそう思うだけで俺はそれを誰かに言う勇気もない。


だから俺は配られたカードにメッセージを書いた。


『竹脇、俺はお前の事ーーーーー』


竹脇がきっと読まずにゴミ箱へ捨てるやろうなって思いながらも……。


担任と竹脇とそんなに仲も良くない学級委員とが竹脇の家にそのカードの束を渡しに行った。


分かってた事やったけど、竹脇から返事が来ることも無く、その後も竹脇は学校を休み続けた。


世間は竹脇を引きこもりって呼ぶようになった。








そして俺はと言うとーーーー




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