桃の花を溺れるほどに愛してる
「うか……桃花!」

「……ん」


 だれかに呼ばれていることに気が付いた私は、そっと目を開けた。

 目の前には、ちょっと焦っているのか興奮気味なのか分からない、京子の顔。

 あれ?私……もしかして、学校で寝てた?うそっ。ここ数時間の記憶がまったくない……んですけど。


「なに?京子……」


 私、ここ最近、春人のせいでまともに眠れなくて、明らかに寝不足なんだけど……。


「『なに?』じゃないわよ!アレ!ちょっ、アレ、見てってば!」

「アレ……?」


 京子が何度も力強く指を差す方向に、ゆっくりと視線を向ける。

 そこは廊下で、なにやら見覚えのある男子生徒が立ってこちらに向かって手を振っている……。

 ……。

 …………んっ?!

 あの男子生徒って……まさか……。

 さらさらとした黒髪、切れのある細長い瞳、すらりとした体格に高い背……イケメンの部類に入る彼は、言わずもがな女子にはモテモテで……。

 いや、そんな風貌だとかモテモテだとかはこの際おいておこう。


「3年1組の榊 壬(さかき じん)先輩よ!」


 ――私が中学1年生の時に初恋をしていた先輩が、そこにいた。
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