桃の花を溺れるほどに愛してる
「えっ……と。だから、なに?」


 まぁ、中学1年生の時の初恋の相手だとは言っても、今は別にどうも思っていないというか……。

 榊先輩には彼女がいるわけだし、仮に私がまだ榊先輩のことを好きだったとしても、それは叶わない恋といいますか……どうしようもないことなんですが。


「『だから、なに?』……って、なに呑気なことを言っているのよ!榊先輩、桃花に用があるって言って来たのよ……っ?!」

「はぁっ?私に?」


 ……。


「京子、近所の耳鼻科を紹介しようか?いくらなんでも空耳や幻聴にも限度があるっていうか……」

「空耳でも幻聴でもなぁーいっ!いいから行ってきなっ、さいっ!」


 私は京子に腕を引っ張られ、背中を押されて廊下へと押し出された。

 周りには榊先輩のファンらしき……っていうか、絶対にファンだな、うん。断言する。間違いないわ。ファンの女子たちが、私をジッと睨んでいる。

 それにしても……榊先輩にはすでに彼女がいるっていうのに、私に一体、なんの用があるというのだろう?


「あの、榊先輩……?」

「ううん、“アレ”だよ」


 にこりと微笑む榊先輩。

 さっきの京子とのやり取りを見て、そう言っているのだろうか……。
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