桃の花を溺れるほどに愛してる
【春人 Side.】


 思い返せば、僕の学生時代はまさに最悪そのもので、いいことなんてなにヒトツもなかった。

 “本当の”友達なんていなかった。仮に彼らを友達だと呼ぶのだとしたら、いるのはすべて、僕が天霧家の息子ということで金目当てに近寄ってくるトモダチだ。

 人を好きになったことは……1度だけ、ある。優しくて可憐で温厚で、まるで大和撫子のような美しい人だった。

 でも……。


「ハァ?アンタなんかただの金づるだから。なに?今頃それに気が付いたの?バッカじゃねーの?」


 ……最終的にはやっぱり金が目当てで、僕はそれ以降、だれかを本気で好きになったことはない。

 異性から好かれている自覚はあった。けれど、どうせそれも金が目当て。いちいち付き合っていたらキリがなくなるため、いつも無視をしていたら……いつしか、ヒトリになっていた。

 いつの間にか、クラスのイジメの対象になっていた。それこそ、色々と面倒なので無視をし続けていたのだけど……イジメはどんどんとエスカレートしていき、自分でも気付かぬ間に心はボロボロになっていった。

 唯一の救いは、家族のあたたかさだろうか。家族のみんなとは仲が良くて、それだけが当時の心の支えだったんじゃないだろうか。

 しかし、ある日突然、さらに最悪な方向へと事態は進んでいく。
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