桃の花を溺れるほどに愛してる
「申し訳ありません、お父様。僕、お酒はちょっと……」


 ……えっ。そうだったの?

 もしかして、車の中で変にぎこちなかったのって、お父さんと会うことじゃなくて酒が飲めないことを気にしていた……からなのか?


「あっはっは。それなら仕方ないな。というか、そんなにかたくならなくても大丈夫だぞ?“お父様”だなんて暑苦しいしな」

「しかし……」

「俺には蓮二(れんじ)っていう名前があるんだから、名前で呼んでくれ。あっ……それと、妻のことも“お母様”じゃなくて、胡桃(くるみ)って呼んでくれて構わないからな」


 うん。さっすが私のお父さん。豪快というかなんというか……。


「それでは、お言葉に甘えて……」

「俺も春人くんって呼んでいいかな?」

「あっ、はい。蓮二さんのお好きなように呼んでください」


 早々とうちに溶け込んでいる春人を見て、私は安堵の息を吐いた。

 よかった。春人とお父さんの相性はいいみたいだし、私も一安心。

 ちらりとお母さんを見ると、「ね?大丈夫だったでしょ?」と言わんばかりにウインクをした。

 ――こうして、春人と私の家族の挨拶は、とっても楽しい時間になったのだった。
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