桃の花を溺れるほどに愛してる
「春人!いいわよ、入って来てもっ」


 私が言うや否や、春人は部屋の中に入って来た。心なしか真剣な表情を浮かべているようにも見える。

 ……そういえば、1つの部屋の中に男女……しかも仮にも恋人が密集することになるけど……うん、大丈夫っしょ。

 なんか、春人ってひょろひょろしてそうだし、もしも襲われたとしても反抗したら勝てそうだ。

 まぁ、もしも襲ってきたら即刻に警察に突き出してやるつもりだけど!


「……って、春人?」


 部屋に入ってすぐ、何かを探すように辺りをキョロキョロと見渡し始める春人。

 なに?まさか仕掛けた監視カメラや盗聴器の場所を忘れたとかぬかすつもりじゃないでしょうね?おい、コラ。もしもそうなら、ぶっとばすぞ。


「えっ?あっ、ああ、そわそわしてしまって申し訳ございません。ここが桃花さんの部屋なんだと思いますと、落ち着かないといいますか……」

「……そっか。カメラ越しに見ることはあっても、実際に入って来るのは初めてだもんね」

「いえ、寝顔を拝借するために何度か部屋の中に入ったことはあるのですが、こう、ちゃんと招かれて入るのは初めてなもので」

「あ?」

「え?」
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