桃の花を溺れるほどに愛してる
 でも、それがないということは……桃花さんは、連絡が出来るような状況じゃない場面に立たされているということになる。

 やっぱり、桃花さんの身に何かあったんだ!

 僕は車のエンジンをとめ、車から出ようとした――刹那、遠くの道に、1台の車が走っていくのが見えた。

 普段の僕なら、気にもしないけれど……気になる何かがその車にはあった。

 ……後ろの席に乗っていたんだ。


 ――榊壬が。


 一瞬しか見えなかったけれど、アレは間違いなく榊壬だ。榊壬が車の後ろの席に乗っていた。

 確か、榊壬って、いつもなら徒歩で家に帰っていくはず……。

 それに、僕はずっとこの校門の前に停まっていたけれど、あの車は停まっていなかった。ということは……裏門?

 ――っ!

 まさか……考えたくはないけれど、桃花さんを裏門から連れ出し、あの車に無理矢理乗せた可能性ってあるんじゃないのか……?!

 僕は慌てて携帯電話を取り出し、桃花さんの携帯に電話をかけた。

 しかし……繋がったと思った矢先に聴こえてきたのは、「電源が入っていません」という無機質な女性の声。

 学校の中にいる間でも、桃花さんは携帯電話の電源はいれていた。それなのに、これって……。

 僕は急いでシートベルトを締め、アクセスを踏んだ。榊壬が乗っていた、走り去った車の後を追うために。
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