笑わぬ黒猫と笑うおやじ
episode.1

 笑顔と言うものは、人を幸せにする力があると、私は思う。
 けどそれはあくまでも、私以外の人間に限っての話だ。

 私は、小さい頃から「不気味」だの、「気持ち悪い」だの、「笑うな」だの、言われてきた。
 顔のせいか、はたまた雰囲気のせいか、私は小さい頃から周りの人に怖がられて、笑うと上のような言葉を投げつけられてきた。

 だから、笑わないようにしてきたのに、人間とはまったく勝手なもので、笑わなかったら笑わなかったで文句をぶつけてくるのだ。
 「無愛想」「呪われそう」「何考えてるかわかんない」好き勝手いい放題だ、まったく。

 けど、それも慣れてしまって、私は現在、23歳。
 相変わらず無表情で毎日を過ごしている。
 朝起きてから、夜ねるまで、無表情。まるでロボットのようだと誰かに言われたけど、誰だっけ?


「おはよう」
「おはよう撫子。朝ご飯出来てるからね、じゃあ、行ってきます」
「行ってらっしゃい」


 綺麗な黒髪を一つに纏め、スーツを身にまとった母が颯爽と出ていった。
 あ、申し遅れました、私の名前は湧川撫子(ゆがわ なでしこ)と言います。


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