カリス姫の夏


昼食時間を過ぎた病院の食堂には、中年の男性患者が1人。居残りで給食を食べさせられている小学生のように、不味そうな顔をして口の中におかずを押し込んでいる。検査か何かで、定時に食事できなかったのだろうか。


他には、面会に来た彼女と仲むつまじく会話する若い男性患者。
そして、私とみゅーだけが食堂に残っていた。


ナース白衣にピンクのエプロンをつけた若い看護師は、私と一緒にいるみゅーを見つけると食事量を尋ね、持っていたタブレットに打ち込んだ。そして、無駄なく仕事を片付けようと、会う患者に次々食事量を尋ねて歩く。そのタブレットにさえ過剰に反応し、私はビクッとした。



私とみゅーの前には、ノートパソコンが置かれている。
食堂での試写会を許可されたからだ。


画面には、2人が愛してやまない織絵ルーナの映像。けれども、2人とも気もそぞろで、私に至っては画面を見てもいない。キョロキョロと周囲を見回し、写真を撮られていないか、警戒を強めていた。


辛うじて視線を画面に向けているみゅーでさえ、私の昨日の出来事に興味津津らしく、パソコンに繋いだイヤホンは片方外されていた。


「ふーん、で?
どこから火がついたのかは、分からなかったの?」

と、みゅーは人の不幸をなんだと思っているのか実に嬉しそうに尋ねた。


「まあねぇ」


こんな話しなければよかったかと、後悔も立つ。

でも、情報の出処がはっきりしない今『ナイトの国』には、極力足を踏み入れたくない。だからと言って、誰かに話さないと荷が重過ぎる。


軽い気持ちでカリス姫の動画をアップしている事から、リアルの自分の写真がネット上に流出した事まで話していた。


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