カリス姫の夏


「出来たー‼」

机の前に座る私は両手を頭の上に広げ、目一杯背伸びした。


部屋の外からは、ラジオ体操を終え帰る小学生の話し声が聞こえる。もう何時間、パソコンの前に座っていたのかさえ忘れた。ただ、徹夜になった事は確かだ。


人間が生命を維持するのに最低限の栄養と水分を補給し、極力トイレにも行かず創り上げた快心の力作。静止画と3Dの画像を組み合わせ、ボカロの音声をはめ込んだカリス姫の動画を作り終えていた。


パソコン画面の三角形に矢印を合わせクリックすると、画面上で私の分身には魂が吹きこまれ、生き生きと動き出した。



金髪、巻き毛のロングヘアに定番のティアラ。

ティアラとおそろいのジュエリーで作られたイヤリングとネックレス。

薄桃色のドレスは総レースで覆われているが、そこは一応アイドルなのでミニスカート膝上30センチは守らせていただきます。


私の分身、カリス姫のファッションは私の技術不足からバリエーションこそないが、この定番スタイルが意外と評判よい。


お約束の衣装を身にまとったカリス姫は、左手を腰に当てた。挑むように、パソコン前の人物に視線を送る。その表情に、我が子ながらゾクゾクする。今回、この表情にはこだわり抜いた。そのために、他の画像はいまいちになってしまったが。


天を指した右の人差し指は、ゆっくり下ろされ正面を指す。右足にかけていた体重を中央に戻し、くるっとターンして得意のポーズで決める。


背景は織江ルーナの最新DVDをお手本にと頑張ってもみたが、どうしても上手に入れられない。結局、挫折し、今回は見送らせていただいた。


動きはぎこちないし、画像は正直パクリも多いが、これが私の実力。


いつもはボカロで歌も作成するが、今回はスケジュールの都合で前作の使い回しとなった。それでも、この5日間部屋に缶詰になり作り上げた2分12秒の動画を最後まで見た私は悦に入り、放心状態だった。




この集中力が勉強に生かせれば、東大とは言わないまでもちょっとした国立大学ぐらいなら入れたのかもしれないなんて思わなくもないが、この高校生活2年半の間、パソコン作業以外に発揮されたことは残念ながらない。




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