友情
「で、今日の彼氏の愚痴はなんなのかな」
 いつの間にか下準備を終えた彼がやってきて炬燵に入ってきた。その手には缶ビールが二本。一本を受け取り開け、形だけの乾杯をしてぐいっと飲む。そして彼氏への不満を吐き出す。

「だってさー、なんかもうわかんないんだよね、本当に好きなのかどうか。男友達と会うのもいちゃもんつけられたり、いちいち今日はどうしてるの? とか言われるの疲れてきちゃった」

「ほー、でも別れようっていえないんだろ」

 彼はさして興味がなさそうに相槌を打ちながらビールをあおる。

「そうなんだよね、どうすればいいのかなあ」

 どうすれば、なんて彼に聞いても答えが出ないことは百も承知で、それでも私が彼を頼ってしまうのはそれがとても心地よいからなのだ、と。

「お前最近ずっとそれしか言ってないからな」

 最初は、本当に悩んで悩んで、サークル仲間で彼氏とも共通の友人の彼に相談した。普段はいつもおちゃらけてていじられキャラな彼ならきっとうまく聞き流してくれるのだろう、と思い相談したところ、案外真面目に相談に乗ってくれ、私はほんのすこし、いいな、と思ってしまったのだ。

「そうだよねえ、ごめん」

それが始まりで、そこから彼氏への思いが冷めていく一方で、目の前にいる彼に対する思いが少しずつ熱くなっていることを、私はもうごまかせないのだ、と。

「まあ、きっとそのうち元に戻んだろ、ちゃんとあいつと向き合え、いいな」

 この一言で気付かされてしまうなんて。

「ねえ、もしだよ、もし私が伊吹と別れたら、」

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