年下彼氏はライバル会社の副社長!(原題 来ない夜明けを待ちわびて)
「由也くん」
「何?」
「うん、ありがとう……」


 あのときと同じキス、鉄塔の見える橋で初めて交わしたキス。由也くんの唇はカサカサして少し冷えていた。切なくて苦しくて私はすぐに背伸びをやめて唇を離した。


「綾香さん、ありがとう」


 由也くんもそう言った。きっと私の意味と同じだと解釈する。今までありがとう、って。
 再びイルミネーションを見上げると、視界の隅にいた由也くんが突然フリーズした。


「どうしたの?」


 私は由也くんを見上げて言った。由也くんはツリーとかを見てはいなくて、水平な目線で向こうの人だかりを見つめてた。私もその視線の先をみる。


「ん?? 知り合い?」


 人だかりの中にこっちを見てる男の子がいた。男の子って言ってもスーツに黒いコート、会社員っぽい。由也くんよりは下だろうか、20代後半。由也くんは、ふう、と息を吐いてから私に向き直る。


「うちの社員です」
「へ??」


 頭の中が真っ白になる。スマ乳の社員って、まさかキスしたのも見られただろうか。大体、どう見ても上層部には見えない。いや、そういう問題じゃなくて。


「だ、大丈夫? 定例会議に同席してた社員さん?」


 スマ乳営業にいたかどうか記憶を探る。営業なら私がライバル社の人間だって気付く筈だから。

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