年下彼氏はライバル会社の副社長!(原題 来ない夜明けを待ちわびて)
 怖かった。ただただ怖かった。ドラマで画面越しに暴力シーンは見たことはあったけど、実際に見るのは初めてだった。しかも平手じゃなくてグーだった。馬乗りになる社長、由也くんを殴る鈍い音。脳裏から離れない。

 あのあと私は母親が呼んだタクシーに乗せられて帰された。母親は私という存在に別段驚いてるようでも無かった。追い返した、というよりは由也くんの変わり果てた姿を見た私を気遣って、という風だった。
 タクシーは直にマンションに着き、私は降りるのもやっとだった。手が震えて財布から小銭も出せず滅多に使わないカードで支払いを済ませたぐらいだから。なんとか部屋に着き、玄関に入る。足がすくんで小さな段差でつまずく。私はそのまま玄関にへたり込んだ。

 私は何てことをしてしまったのだろう、私が由也くんと結婚したいと思わなければこんなことにはならなかった。私さえ我慢すれば、由也くんは殴られなかった。社長だって由也くんを殴らずに済んだ。後悔先に立たず、だ。一度地下に落ちた人間が地上にひょっこり顔を出したからだ。夜明けを見ようとするからバチが当たった。
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