それでも僕は君を離さない
「率直に言おうと思う。賢い君ならこれから僕が言うことに納得できるはずだ。」

「何でしょうか?」

透吾さんはワイシャツの袖をまくっていた。

きれいな手と腕が日焼けしていた。

「君は彼の中の先輩を追いかけているだけだ。彼の過去の姿を追い求めているにすぎない。」

「いいえ、そんなことはありません。」

「君にとって今も大切な先輩を想うことはあとあと君自身が傷つくだけだ。そのことに早く気づいてほしい。それを伝えたかった。」

「話しはそれだけですか?」

「まだあるよ。」

「何ですか?」

「もし僕が言ったことが当たっていたら君は彼も傷つけることになる。それは誰よりも君が一番望んでいないことだ。僕が言っている意味がわかるだろ?僕のことは考えなくていい。彼のことを考えて自分の気持ちを冷静に整理してみてくれないか?」

透吾さんは真っ直ぐに私を見て

私からの返事を待っていた。

「わかりました。」

「僕は君の想いはつかめなかったけれど、君に対していつも正直でいたい。それだけだ。」

私も透吾さんの目を見て答えた。

「私もです。」

「時間を割いてくれてありがとう。」

彼は席を立ち、帰って行った。

私はしばらく目の前の空になった席を見ていた。

< 108 / 126 >

この作品をシェア

pagetop