それでも僕は君を離さない
「私には誰かに甘えたり、夢中になったり、恋をしたり、おしゃべりを楽しんだり、どこかへ出かけたり、そういった時間がなかったんです。」

「先輩とデートくらいしただろ?」

「いいえ、先輩とは研究チームの延長線上のような関係でしかなく、透吾さんに言われたようにときめく想いにもほど遠く、恋愛感情を意識したこともなかったです。」

「そうか、そうだったのか。僕は君を大切にしたいし、想いが届いたらと願っているけれど、君を求めすぎて困らせたくないし、でも応えてもらいたい気持ちも強い。」

「透吾さんが複雑な気持ちでいることがわかりました。」

「あっはっは。」彼は突然大きく笑った。

「どうして笑うんですか?」

「愛おしすぎて狂いそうだったから、その気持ちを自分でぶち切って笑いで吹っ飛ばした。」

「今のは全然理解できませんでした。」

「あっはっは。」彼はさらに笑った。

私は彼の軽やかな笑い声をいつまでも聞いていたいと思った。

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