Secret Rose
一瞬、担任かと思った。
しかし、趣のある 深い鴬色の着物に黄土色の帯を締め、足元には草履を履いているのをみると、普段スーツを着ている担任には想像もできない格好だった。
私は担任のことを想いすぎて、見間違ったんだと思ったが 目を逸らすことが出来ずつい見とれてしまった。
その男性はあたしと絵里奈の50メートル程前を横切り、脇道の脇道に姿を消した。
私がその男性を目で追っているのに気づき、絵里奈が

「今、あの店から出てきた人 茜の担任の先生に似てへん?」

と、冗談を言うように笑うので、私はとっさに

「あんなに感じ好さそうな人のこと 担任に似てるなんか言うたらあかんで」

と、さっき思っていたことを隠し 一緒に笑ってみせた。
しかし隠しきれず、顔が引きつるのがわかった。普段の笑顔とは違うというのが絵里奈には一目瞭然で、

「ほんまは似てる思てんねやろー」

と茶々を入れられた。
絵里奈はもう私が担任に好意を寄せていることを知っていた。
絵里奈との付き合いはそんなに長いわけではないが、何となくお互いの考えていることがわかったり、同じことを考えていたり、と なんだか離れられなくて、むしろ 離れたくはない何かを感じる。

絵里奈に茶化されながらCDショップに入り、お目当てのCDを手に取るとわき見をせずにレジへ向かった。

「はよ聴きたいなぁ」

と絵里奈と話をしながら、今日は私の家で晩御飯を食べて行くことにし、それなら と、スーパーに寄り食材やお菓子を買い込み家に向かって歩いた。
日が暮れるとカーディガンだけではもう肌寒い。
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