歪んだ愛しさ故に
 
「おはようございます」

「おは………え?誰?」



いつも通り出社して、先にいる人たちに挨拶をしていく。

誰もがあたしを二度見する。


注目されるなんて、どれくらいぶりだろう。

人の視線って、こんなにも感じるものなんだ。



「ふぅ……」



いつもの席について、パソコンを開いた。

その途端、周りがざわつく。



「えっ……!?

 と、豊田さんっ!?」



一人の社員が、大声で人の名前を呼ぶ。

フロアにいるすべての人が、あたしに注目した。





「おはようございます」





にっこりと微笑み、愛想を振りまく。


レンズという、隔たりがない視界。
さらりと流れる髪。


これがあたし。

豊田琴音だ。

 
< 101 / 287 >

この作品をシェア

pagetop