歪んだ愛しさ故に
 
「今度こそ絶対に逃がさないから」
「……」


胸元に落とされた唇。

右腕がジーンズのボタンに手をかけられているのが分かる。



ダメだ……。
またあたしは……






「てめぇ、死にてぇの?」






健太の背後から、ドスの聞いた低い声。

声だけでも人が殺せるのなら、きっとこの声にはそれが出来ていたであろう。


だけどあたしにとって、その声は、安心する以外の何者でもなくて……。



「お前……」

「いいから離れろっ!!」

「ぐっ……」



あたしの上にまたがっていた健太は一瞬にして吹っ飛び、それと同時に別の人が目に飛び込んできた。




「お前……ふざけんなよ……」


「………拓……」




目が合った瞬間、くしゃりと歪む顔。

だけどその視界は一瞬で消えて、温かい温もりへと包まれていた。
 
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