だから私は雨の日が好き。【花の章】
「山本さん」
「――――っ!はい!」
彼女は驚いたような声を上げて、私の方へと向き直った。
顔に出さないようにしていても緊張は伝わるもので。
彼女は精一杯の平常心を私に向けてくれていた。
立ったまま固まっている彼女に座るよう促して、備え付けのポットを使ってお茶を入れる。
社長の好きな日本茶を用意してくれていたことに少し驚いた。
「あのっ!そんなことは私が――――」
「いいのよ。まぁ、座って待っていて」
そう言うと渋々そこに座ってくれた。
私に逆らうのは得策でない、と。
頭の中にも、身体の神経にも警報が出ているに違いなかった。
そんなにも警戒されるとからかいたくなるのも事実で、意地の悪い考えばかりが浮かんできた。
お茶を淹れ、テーブルに置く。
条件反射のように返ってきた『ありがとうございます』という言葉に、良い家庭で育ったのだとすぐに分かった。
「・・・ごめんなさいね」
「え・・・?」
「そんなに怯えさせる気はなかったんだけど、まぁ無理もないわね。山本さんには、本当にキツく当たっていたでしょうから」
自分からこんなにも穏やかな声が出るとは想わず、目の前で目を見開いている山本さんよりも、自分自身が驚いていた。
不安そうに揺れる山本さんの目を見つめて言葉を続けた。
「二人を見るのが、嫌いだったわ。私に向けられるものとは違う感情を込めた櫻井君が、貴女を見ているのは本当に嫌だった」
「・・・」
「去年のあの時も。貴女のことを認めることなんて、この先絶対にないと想っていたのよ」