お姫様と若頭様。【完】





「お嬢様のことはほんの少しなら
私にでも理解出来ますよ。


長年の経験、
と言ったところでしょうか?




"夕梛の為"そう考える楪様は
どれほど優しい方なのか、

私でなくてもそれはあなたの周りにいる
誰もが感じていることだと、
私は思っております。



…あなたは優しい人ですね」




そう言う彼は、
もう私の中では天使なのではないか。




「お嬢様?」


何も話さない私に不思議に思ったのか、
また名前を呼んだ彼。


優しく、とても心配そうに。






「……私はあなたのようになりたい。



生まれ変わって、
全てをリセット出来たら
どれだけ嬉しく、心が軽いだろうに…。



彼のことを忘れるのは
何よりも辛いけれど、

私の所為であなたも、彼も、
絶対に傷つけたくないの…。



…どうやったら、
周りの人を傷つけないで済む?


どうやったら家も周りも上手く行く?



どうやったらこの現実から…



いつになったら"ここ"から
抜け出せるの?」



例えば彼が天使なら、自分の羽で自由に
飛んで行くことが出来るよね。



…でももう私の翼は折れてしまったの。




…いや、この家に生まれたその瞬間、
私の羽は既に折られてしまったの。


代わりに峯ヶ濱から逃げられないよう、
重たく冷たい、鎖で繋げられて。


< 196 / 371 >

この作品をシェア

pagetop