お姫様と若頭様。【完】








…信じてたのに」





心がズレ出した瞬間。





顔は今にも泣き出しそうな悲しい顔。








心は今にも笑い転がりそうな
とてつもなく愉快な心。








なんでも自分の思い通りになる
この現状が、


俺には酷く滑稽なものに感じた。








違う世界を、知って見たいと思った。


























だから俺はあの日、家を出た。





大粒の雨が地面に叩きつけられる梅雨の
あのジメジメと少し暑い日。




俺は今まで俺を苦しめ続けた"神原"を
捨てた。




もうこの世に、"神原"はいない。




今はもう、俺は彼女の執事"夕梛"だ。





でもあの日、俺は神原を捨てる代わりに
とてもとても美しい少女と出会った。



深い闇を含む彼女の瞳に、
これでもかというほど引き寄せられた。



俺の闇を理解してくれると
直感的に思った。



当時まだ彼女は表舞台に顔を出さず、
彼女が峯ヶ濱だとは知らなかった。





優しく、誰よりも美しい彼女。



華奢な体に抱えた大きな闇。





彼女の全てに、
時間をかける度惹かれて行った。




誰も俺自身を見てくれなかった。



いつからか、
それは当たり前になっていた。


でもそれは俺の所為でもあったと
彼女を見ていて思った。


彼女は見た目以上に、
内面がとても素敵な女性だ。


年齢以上の大人っぽさは、彼女を取り巻く環境がそうさせてしまったのだろう。


そんな大人な彼女だからこそ、
仕事の面で大人は彼女を子供として
扱うことができないのだろう。



大人以上に大人っぽい彼女。



でも時々見せる友達や仲間を語る時の
彼女の表情は年相応で安心する。


彼女もやはりただの高校生で、
周りに個性を潰されてしまうかもしれないあの場所は彼女を壊しかねない。



だから俺が、
彼女を全力で支える。


彼女が俺を支えてくれているから。



彼女だけは絶対に裏切らない。







ー夕梛の過去endー
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