お姫様と若頭様。【完】

Take17


【楪side】

過去のことを思い出しているのか、
夕梛の表情は硬い。




私が夕梛と出会ったあの日、
彼は凄く冷たい瞳をしていた。


そして、私によく似ていると。





でもここでこうやって
一人でいるということは、
私のように逃げられないわけじゃない。



どうしても、
彼を救いたいと思った。






それは彼のためではなく、
自分のためだったけど。

でも、私は彼を助けたことを
後悔なんてしたことない。



きっとそれは、
これから先も変わらない。







彼は以前、神原のお人形だった。



自由な感情を持つことを禁じられ、
いつも顔に笑顔を貼り付けていた。


家からの命令には全てハイと答え、
反抗なんて決して許されなかった。






感情なんて必要ないものだと、
幼い頃から言い聞かされていた。






そんな彼は確かに間違いは犯した。



人を傷つけても心を痛めないほどに
彼の心は凍てついていた。




本当は救うなんて
そんな大層なものじゃないけど、

彼はこうやって今も
私に遣えてくれている。






彼以上に優秀な執事が、
他にどこにいるというのだろうか。





優秀な執事というのはただ感情を殺した
なんでも言うことを聞く人なのか。





…本当にそれがそうなら、
それはなんて悲しいことなのだろう。



人を思える執事こそが、
私は真の優秀な執事だと思う。


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