お姫様と若頭様。【完】


皆のこと、凄く好き。



大好き。






こんなに悩んで苦しいのは、
皆の所為かもしれない。




こんなに悩んで苦しくなるほど大切で、幸せな気持ちはきっと、
皆がいなかったら味わえなかった。



ヨルや皆がいてくれたから、家でも我慢ばかりだけど頑張ってこれた。




特にヨルには凄く感謝しているの。




私にこんなに好きにさせてくれて
"ありがとう"


こんな私を好きになってくれて
"ありがとう"


何も言わずに離れて
"ごめんね"



本当はサヨナラくらい言いたくて、でも言ってしまったらもう会えなくなりそうで、悲しくて怖くて…。


結局この日まで言い出せなかった。


今だってほら、
何も言えずに思いだけ伝えて。






「皆と出会って色々なことがわかった。

最近何をしてても楽しいと思えるのはね
きっと皆のおかげなの。


普通の景色が普通に思えなくなったり、
仲間がキラキラと輝いて見えたり。


どんな小さな変化も気づいてくれるそんな皆だからこそ、私は好きだったの。



…きっと私がいなくなっても、
それは変わらないよね?」



「えっ?」


最後の方は小さくて聞き取れなかったのか聞き返して来た彼。


それでも、

「ううん、なんでもないよ」
と笑って誤魔化すのは、
ヨルにはなんでも見透かされてしまいそうで怖かったから。


彼は人1倍他人の変化に気づいて、
とても頭が切れて…。


紅蓮の総長だけあって凄く鋭い。


そんなヨルだからこそ、嘘で塗り固められた私を見破られてしまいそうだった。




その代わり、思いを乗せて…


「ヨル、皆幸せだといいね」




この世に幸せが限りあるだなんて
思いたくない。


誰かが幸せならまた誰かが不幸せなんて
そんな悲しい世界、私は嫌。


皆が皆、幸せになったらいい。


たとえそれが無理だとしても、
ほんの少しでいいから幸せを感じて。


私は自分が不幸だなんて、
決して思わない。




こんなにも好きで、素敵で、
私には勿体無いくらいの
光り輝く皆に出会えたから。



この世界には何人の人がいる?


いくつの出会いがある?




それは1つや2つなんかじゃなくて、
何千、何万、何億と、
どこまでも続いて行くような、
数え切れないほどのもの。


だからこそ、私たちがその中の1つ、
峯ヶ濱 楪と紅蓮として出会えたことは
きっと奇跡なんだ。



この手に感じる温もりも、

耳に入る普通の言葉も大好きな声も、

目に入る彼の綺麗な横顔も、

肌に感じるほんの少しの風も、

鼻で感じる僅かな雨の匂いも、
























「ヨル…目、閉じて?」




















この唇に感じる人生で最後かもしれない
途轍もなく愛おしい温もりも、






きっとずっと忘れない。
























いつまでたっても別れの言葉を言えない
私は臆病で、軟弱者。


別れの言葉を言ってしまったら
もう会えなくなりそうで悲しくて怖くて
仕方なくて言えなかった。



誰かを愛することも、
誰かに愛されることにも慣れていない
私はきっと周りから見ると
浮いてるのだろう。


それでも私を見つけて好きになってくれた世界1大好きな人に、
きっと一生会えないことを言わなきゃ。




















でも私は、
その1歩は踏み出せなかった。








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