お姫様と若頭様。【完】




やっぱり、私は卑怯だね。




皆の前じゃ平気な振りしてたけど、
やっぱり平気じゃないみたい。



ヨルの手を握っていると、
思わず涙がこぼれてしまいそうになる。







「もうここまででいいよ、ヨル」




皆に別れを告げるのはいつも私で、





「大丈夫か?家まで送ってくぞ?」





私を心配して待っていてくれるのは
いつもあなた。





「…皆によろしく言っておいて」


そう言って名残惜しくも
手を離そうとした。



「明日!明日倉庫来るよな?」


きっといつもならすぐに「行くよ」って
答えていたこの質問に、
今はどうしても答えられなかった。



「…ヨル、今日星、綺麗だね」



話題を逸らしたいわけじゃない。


ただ不意に思い出しただけ。



あの夏に眺めた思い出の空。

たくさん散りばめられた光り輝く星と
美しい月。


そして愛おしくて仕方ない、
かっこいい彼氏の姿。






「確か俺が、"死ぬと星になる"って
言ったんだよな」


「うん、そうだね。

覚えてるよ」


ヨルや皆との思いではとても大切で、
いつかは忘れてしまうとわかっていても
忘れたくなくて密かに日記をつけてた。


どんな会話も忘れたくなくて、
頭に焼き付けていたくて。

何度も何度も読み返しては
あの日のことが夢だったように感じた。



「皆楪が心配なんだとよ。



…俺も時々思うんだ。











楪はいつか消えてしまうって」




まるでこの世界が全て夢だったような、
そんな錯覚に陥る。



あなたにこんなにも想われていることが
限りなく悲しい。嬉しい。苦しい。


あなたの想いを聞く度にいつかの別れを
悲しんで耳を塞ぎたくなる。



"これ以上、
あなたを好きにさせないで"と。





「星は朝には消える。

跡形もなく。


俺はお前が星のようだと思うよ。

雲に隠れてしまうみたいに、
光に包まれて見えなくなってしまう
みたいに、フッと消えることがある。



皆もきっと同じ気持ちなんだ」




絶対に離れないって、
ずっと一緒にいたいって言えたら
どんなに楽だろうか。




「…私は皆と違って強くないから、
皆を傷つけちゃうかもしれない」



黒蓮に囚われた時、
皆は私のこと助けてくれないんじゃないかって疑った。仲間ではなかったと。


それを皆が知ったらどれだけ悲しむか、
考えもしないで。


それを思うことこそ愚かなことだって。






やっぱり皆は、
私といるべきじゃない。

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