クレナイの歌
「ああ。クレナイの歌、教えてもらうの待ってるから」
岸辺がくすりと笑い、ゆっくりと背を向ける。
途端、朱里は思い出したかのように大声をあげた。
「じゃあ名前くらい教えてよ!」
軽く目を見開き、岸辺の口からああと声が漏れる。
本気で忘れていた。
そういえば、まだ教えてなかったんだ。
「俺は……」
俺は今、笑っている。作り笑顔じゃない。笑えてないんじゃない。本物の笑顔だ。あたたかいもの。
それを教えてくれた君に、初めて俺は恋をした。