モン・トレゾール
「しゃ、社長は?」
慌ててデスクの上のスマホを鞄に押し込めながら、既にコートを羽織った戸田さんに問い詰めた。
「3時から本社に行くって言ってただろ、オマエ……全然話聞いてねぇんだな」
……本社ですって? いつそんなこと言ったのよ?
半分呆れたように言われた言葉も、今の私にはダメージにすらならない。
――ご、ご飯……間に合わないかも
頭の中が夕食の準備のことで一杯だったからだ。
もう! 理ったら、どうしてこういう大切なことを朝に言ってくれないのかしら。
ブツブツ小声で文句を言う私に――
「おい、大丈夫か?」
『頭』と言葉のお尻についたような気がしたけど、気のせいなはず。
「戸田さん! 帰るわよ」
「あ、ああ」
とにかく、急いで帰らなきゃ。
首を傾げ私の顔を見る戸田さんの腕を引っ張ると、私はホール中央のエレベーターへと向かった。