モン・トレゾール

「ねぇ、理?」


済んだことを今さら確認するのも微妙な気がするけど、スーツの一着でもブランドにこだわるような彼があんなおかしな服を買うはずがない。


「……もしかして、あの私に着せてた服も――」


「あー、アレ? そうだな。いつ脱ぎたいって言うかって期待してたのに、いつまで待っても言ってこないし。こっちは交換条件まで用意してたのに」


交換条件って……もしかして、最初から戸田さんに結婚してますって私の口から言わせようとしてたの?


「……なんか、悔しい」


この三ヶ月間の私の苦労ってなんだったんだろう。


「愛莉ちゃんは負けず嫌いだからね」


ムッとした私の横で、我慢出来ないようにクスクスと笑いだす彼をひと睨みするとプイッと顔を横に向けた。


「今日は自分の部屋で寝るから」


「はぁ?」


――フフッ、焦ってる、焦ってる


さっきの私よりも納得出来ない様子の彼のこの反応に、心の中で少しだけニンマリする。


「だって、理。意地悪なんだもん」


駄々をこねるようにそう返すと、車は二人のマンションへと到着した。
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