モン・トレゾール
「……んだよ、こんな時間に」
日付も変わった時間に電話に折り返さなきゃいけないような相手だと、文句のひとつもつけたくなる。
『おい、随分な言い方だな』
向こうも同じように相手に気遣っているのか、電話の先からは風の音が漏れてくる。
「で、何の用だ?」
『おまえさぁ、帰ってきてから一度も連絡よこさねぇだろ。沙羅(さら)も心配してんだからな』
「あいつは兄貴の心配でもしてればいいだろ」
『……おまえなぁ』
少し呆れたような浩(ひろし)の反応に、この電話の意味を悟った。
この男――神山浩(かみやまひろし)とは、大学の時からの付き合いだ。
俺に断りもなくあの会社に入り、営業成績もトップだったというのに。
俺が会社を任された時には、自ら異動を志願してまで俺をずっとサポートしてくれた奴だ。
――だが、いくら相手が浩でも当然言いたくないことだってある。
まして、浩の近くには沙羅がいるんだ。