銀盤の国のお姫様
 たぶん、質問の数を絞り、必要最低限に答えて、さっさとロッカーに引き上げて、会場周辺をうまく通り抜けて、戻ってくるだろう。
 華音有はマスコミが大の苦手。だから、こうしているのだろう。
 私だって、華音有が小学生の時から、少しずつ信頼関係を重ねて、やっと私の質問にはある程度まともに答えるようになったんだから。


 まだだろうか、まだだろうか。ほとんど人の出入りが少ないこのホテルの入り口に、一人ぽつんといると余計寂しくなってくる。

 今回ばかりは、すぐに戻って来ないだろうか。すぐには戻れないか。

 だけど、彼女は他の記者がいる中では私の質問に答えづらいだろうし、ストレスだと思う。

 今のところ、私以外の記者はいない。ここなら、きっと華音有の思いや、私が今日の演技について色々言えるだろう。

 はあ、ここではなく、会場で取材した方が良かったのだろうか。


 失敗感が頭の中で充満していた時。

 長く、真っ直ぐな漆黒の髪をお団子にまとめ、太い黒ぶちの眼鏡をかけ、上下黒いジャージを着た女性がホテルの入り口に入った。

 華音有だ。

 向こうも気付いたようで、“そおっとついて来て”と目で私に合図を送る。

 もう一度、本当に私以外誰もいないか確認してから、華音有についていく。

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