淋しいお月様
そんな彼が、今朝方まで私の家にいた。

――なんてこと、ユアさんにも誰にも云えない。

「ね、彼氏のプリクラとかないの?」

「な、ないよ」

彼氏と勘違いされている、同居人のセイゴさんが写ったプリクラなんか見せたら、ユアさんは

きっと絶叫、卒倒してしまうだろう。

本当のことを話したら、ユアさんは認めてくれるだろうか。

それとも、“抜け駆け”とか言われるだろうか。

……どっちにしても、荒波は立てたくない……。

私は一生、黙っていようと思った。

別に、セイゴさんが多久美省吾だと知って、仲良くなったわけじゃないし。

ユアさんにライブに連れて行ってもらわなかったら、彼がミュージシャンだということは知らなかったわけだし。

それにしても、東京は歩いているだけで芸能人に当たる、とは聞いたことあるけど、本当だったんだなぁ。
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