淋しいお月様
“鳴瀬雅美”なるお客だった。

「覚えてるかしら?」

「あ、ショッピング枠増額で承りました」

カードショッピング上限の30万から、一時引き上げで50万まで伸ばしたお客だ。

「そう。だけど、電話してきたのは本人じゃなくて、奥さん」

「え? 奥さん……」

「“雅美”なんてお名前だから、アナタ、女性だと勘違いしたのよね」

「あ――」

「旦那さんの、雅美さんの方からクレームが入ったわ。自分の知らないうちにカードの上限引き上げられてて、使われたって」

さーっと血の気が引くのを覚えた。

でも、“カード所有のご本人様でしょうか”とは聞いてるはずだ。

それに対して、その奥さんは“はい”と答えたのであろう。

油断してた。

「申し訳ありません――」

私は目の前の安藤女史に、謝ることしかできなかった。

「……ったく。芸能人とつきあってて、浮かれてるからそうなるのよ」

――はい?

「つきあいの相手がお金持ってるなら、アナタ、働かなくても、いいんじゃないかしら」

それとこれとは、別です!

つい、大声を出すところだった。

タクミさんとは、もうつき合いもないですから!

そう、言いたかった。

「始末書ね。あとで提出してください」
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