淋しいお月様
「そうなの? 会えなくなるの?」

「うん。ごめんね。曲が仕上がれば、すぐにでも会いに行くよ」

「曲って、何曲つくるの?」

「今回はシングルリリースの曲だから、10曲くらい」

「10曲も?」

「そう。その中で、いくつかチョイスして、1曲に絞ってく」

「大変だね」

目の前にいるひとは“セイゴさん”で、私の彼氏……で。

だけど、このひとは“タクミセイゴ”で、みんなのアイドルで。

何だか信じられないな。

私の前だと、いつもしっかり者の専業主夫だ。

だけど、ステージに立ったり、テレビに出たり、サインしたりと、芸能人なんだな。

ユアさんにライブに連れてってもらうまで、このひとがミュージシャンだなんて、気がつきもしなかったよ。

よっ、とセイゴさんが起き上がる。

あぐらをかいて、ギターケースを開ける。

「あ、歌うの?」

「うん。たまにこういう場所で歌うのも好きなんだ」

「ピアノじゃなくて?」

セイゴさんはピアノ弾きだ。

「ここじゃ、ピアノは弾けないだろ」

苦笑するセイゴさん
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