淋しいお月様
「キーボードとか」

「ああ、シンセサイザーも持ってるけど、外で歌う時はギターかな。鍵盤弾くと、何だか仕事の

一環みたいで嫌でさ」

ギターの弦を爪弾いて、セイゴさんは耳でチューニングしている。

ギターの弾き語りを、こんな間近で聞くなんて初めてだ。

しかも、プロのミュージシャンだ。

こんな贅沢、あるかしら?

「リクエストある?」

「ん~、私、音楽に疎くて」

「そうか。じゃあ、好きに弾くよ」

じゃーん、とギターの弦を鳴らし、彼は歌い始めた。

私でも知ってる曲だった。

STAND BY MEだ。

英語の歌も歌えるんだ。それも流暢に。

セイゴさんの歌声は、伸びやかでクリアで、ファルセットなんかも綺麗。

好きな歌声だな、と思う。

普段話している声と全然違う。

どちらかといえば、低い声なのに、歌う時は透明でキラキラしている。

そっか、これが多久美省吾の魅力なのか。

私は陶酔してしまった。
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