Love their
とにかく全て彼で満たされてしまいたかった。


そうしないと、決めた覚悟がぬるま湯のようにうやむやになり、またいつもと同じように日常に溶けてしまう。


レイはサトルと別れよう、と思った。


理由を足さなければ、別離を事実として自分が認められない。


勿論、そんなことをありのまま話して別れるつもりはないけれど、この状態から抜けたくても抜けれない気がした。


サトルに非がある訳でもなく。

嫌いになった訳でもない。

嘘つきな自分をこれ以上抱えるのが嫌になった。



けれども、それで言って許されることでもないから、またサトルに嘘をつくことになる。


別れる最後の最後まで嘘。


レイは最大に開放していたシャワーの栓を何度も回して段々と緩く垂れてくる水滴が落ちないのを確認した。


ドアの隙間を開けてすぐ側の棚に置いてある大きめのバスタオルを片手で掴み入れてからまたドアを閉めた。


乾いたタオルはレイを包む熱気と水滴を瞬時に染み込ませ湿気を帯び心持ち重くなった。


同じ柔軟剤の香り。


彼の香りとはまた違う香りだったが彼に覆い包まれているような錯覚に陥りそうだった。


優しい安心出来る香り。

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