堕ちてくる
助けて
―――拳ちゃん。拳ちゃん。
涙を流しながら走る。自分がどこを走っているかなんてわからない。それでも遠くへ、剛田の元へ、そう考えながら走り続けた。

気が付くと、葉月は全く知らない繁華街にいた。
―――ここどこ?
やっと、我に返った。慌てて携帯を取り出し、剛田に連絡を取ろうとした。彼女の耳にいつまでも呼び出し音が鳴り響いた。
―――早く出て。拳ちゃん・・・。
願うような気持ちだ。願いは通じた。心から安心できる声が聞こえてきた。
「どうした?葉月。」
「拳ちゃん・・・。教頭先生が・・・、教頭先生が・・・。」
「落ち着け、葉月。まず、深呼吸しろ。そして、それから話すんだ。」
吐息が受話器越しに聞こえてくる。
「よし、どうだ?葉月、落ち着いたか?」
返事がない。受話器からは、葉月の声以外に、複数の男の声が聞こえてきた。

「やめて下さい。」
「いいじゃない。遊びに行こうよ。」
「そうそう、俺たちと遊ぶと楽しいよ。」
馬鹿に付ける薬はない。悲しいかな彼らにぴったりの慣用句だった。
「今、電話しているんです。どこかに行って下さい。」
「そんな電話いいじゃん。」
男のひとりが携帯を取り上げ、そのまま切ってしまった。

「お、おい。葉月。」
剛田は電話をかけ直した。
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